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コラボ第一弾、好評をいただき調子に乗った管理人二人により…

『‡真昼の月‡』水無月とのコラボ小説第二弾の登場です。

今回のお話は三月と拓海と陵介と遼の四人で動物園に行くお話となっております。

三月と遼、陵介と拓海は今回が初対面になります。

そこんとこのやり取りが楽しいと思うので、興味のある方は覗いていって下さい。

こちらで取り扱うのは三月視点の話になります。

『真昼』の方では遼視点でお話を楽しめるので、読後、別視点が気になられた方はそちらも是非。

前回同様、書いてる本人達が楽しい!ってだけの企画なので、読者の方がどう思われているかは結局不安なのですが…

今回もいい感じにキャラ崩壊しまくりなので、ご注意下さい。
それでは、企画スタートです。

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―日曜日―


今日は久しぶりの外出だ。


ちなみにどこへ行くかというと、拓海ともう一人と俺と陵介の四人で動物園に行く予定。


そして俺は今、陵介に引きずられている。


「三月、寝ぼけんのもいい加減にしろって」

 

「…ダメ…、ねむ…」


朝が大の苦手な俺は、立ったままでも寝れる器用な人間ゆえ、放っておいたらどこでも即座に寝てしまう。

おやすみ3秒。

だから陵介は文句を言いながらも俺の服を引っ張って歩いているのだ。


「ただでさえ待ち合わせに遅刻してんだからな」

 

うー…ん…」


ぼやーっとした意識の中、そのまま暫く引きずられていると、突然陵介が小さく声を上げて立ち止まった。


「「あっ…」」


その声に、もう一つ聞いた事のない声が重なる。

 

 

 

 

-園内エントランス―

無事(?)合流が出来た俺達四人は現在動物園入口にいた。

ここでようやく目が覚めて来た俺は、改めて拓海の横に立つ男を見る。


(くっ、で…でかい)


そいつは陵介よりも更にでかくて、何となく悔しい気持ちに駆られた。

ミツキ、よかった~。寝坊しちゃったから、絶対に待たせてるって思ってたんだ」


拓海がこちらへ小走りに駆け寄って来る。


「お互いナイス遅刻だな」


拓海との久しぶりの再会に、自然と笑みがこぼれた。

それから間を置かずに、でかいヤツが陵介に話し掛ける。


「よぅ、遅刻の原因はお互い連れのようだな?」

 

あぁ、そうみたいだ」


呆れた様に笑い合う二人。


(なんか打ち解けてる感じ?ま、陵介は前に会ってるもんな)


そこで、俺達はまだ自己紹介をしていないことに気がついた。


「拓海、紹介するよ。こいつは筧陵介。俺のルームメイトで星彩学園の二年生。何かと世話をやいてくれる良い奴なんだ」


斜め後方に立っていた陵介の腕を引っ張って前に立たせる。


「よろしく」


陵介が挨拶をすると、ペコリと頭を下げて照れたように挨拶をする拓海。


「あ…、よろしくお願いします」


今度は陵介がでかいヤツに俺を紹介する。


「こいつが笹本三月。ルームメイト兼手のかかる後輩」


(手がかかる…だと?)

陵介の言い草にムカッと来た俺は、怨みがましく陵介を睨みつけた。

黙って陵介を睨み続けていると


「よろしくな」


でかいヤツが声を掛けて来た。


「どうも」


なんて返事をしたものかと思い、とりあえず当たり障りのないように普通に返した。


「今度はこっちの番だな。若葉台学園一年、桜井拓海。俺の恋人だ」

(こいつ…、涼しい顔でさらりと言いよった…)
 

でかいヤツが拓海の肩を抱き寄せて堂々の恋人宣言を発すると、拓海は耳まで真っ赤になって照れていた。

しかし、拓海のそういう所がなんか初々しくて可愛いよな。

そして真っ赤になりながらも俺にでかいヤツを紹介しようと必死な拓海である。


「え…えっと、同室で同級生の冴木遼。オレのか、か、彼…」


……


何を言いたいのかハッキリと理解している俺は拓海に笑いかける。


「拓海、よーくわかった。みなまで言うな」


まるでどこかの時代劇のような台詞だ。

と、まぁこんな感じで初めて四人での顔合わせを終えたのだった。

俺達は自己紹介を終えてからエントランスを抜け、ようやく動物園の敷地内に足を踏み入れる。


「そういえば…、お前ら此処は初めてか?」


拓海の彼氏…の遼ってヤツが俺と陵介に問い掛ける。


「俺は初めてだけど、三月は?」

 

俺も…こういうトコ初めて」


実は…。俺は遊園地とか動物園とか、生まれてから一度も行ったことがなかった。

小学時代は学校と、とある用事以外は大抵家の敷地内か自室で過ごしてたし、黒歴史でもある中学時代に至っては、最早レジャーだのどうこうの話ではなかった。

だからここだけの話、内心かなりドキドキしていたりする。

なんか恥ずかしいから態度には出さないようにしてるけど…


「ミツキ、初めてなの?!オレ、前に来たコトあるんだ。見たい動物とかいたら、案内するよ?」


拓海が笑顔で問いかける。


「見たい動物か…」


(見たい動物…って言われてもな)


俺が何も言えずに黙っていると…


「じゃあ、順番通りにまわるか」


遼が率先して提案した。

話が纏まると途端にはしゃぎだす拓海。


「ミツキ、こっちこっち!」

 

わっ!」


拓海が満面の笑みを浮かべて俺の手を取ると、そのまま元気良く駆け出す。


向かう先はアフリカ象。


でかい二人組は俺たちの後を追うという形で見て回る事になりそうだ。


それにしても


象か。


デカイんだろーな。


テレビや本でしか見た事がないから楽しみだ。

 

 


「ほらミツキ、見て見て!大きいでしょ!」


拓海が指差す先には巨大なアフリカ象が長い鼻を揺らしつつ、のっしのしとマイペースに歩いている。


すげぇ

象だ

本物だ


俺は感動のあまりについ黙り込んでしまった。


「すごいよねー!…あ、ほら!あっちの象がリンゴ食べてるよ!」

 

…え、マジで?どこ?」

 

あそこだよ、右にいるヤツ!」


そこには長い鼻を器用に使ってリンゴを口元へと運んでいる象の姿があった。


「へぇ、象って器用なんだな」


よくあんなに長い鼻を細かく動かせるものだ。

一人で感心していると、拓海が待ちきれない様子で俺の腕を取る。


「次はレッサーパンダだよ!」

 

 

グイグイと拓海に檻の前まで引っ張られて行くと、檻の中には何とも愛らしいレッサーパンダが一匹、ふわふわの尻尾を揺らしながら右に行ったり左に行ったりしていた。


なんなんだ。この愛らしい生物は。

ふわふわ…。ふわっふわだ。


「このレッサーパンダね、クララちゃんって言って二本足で立つんだよ。運が良ければ、立ってるトコ見られるかもね」


拓海がこのレッサーパンダの名前やらを色々と説明してくれる。

頬を薄紅に染めてそれらを得意げに話す姿は、一見男には見えない程の可愛さがある。知ってるけど。


「…せっかくだから見てみたい、かも」


いや

かなり見てみたいに決まってるだろうが。

立て、立つんだクララ。

俺が暫く、じーっと食い入るようにレッサーパンダを見つめていると

彼女(?)は何気なしにひょいっと前足を持ち上げてあっさり立ち上がって見せた。

 

…あ、クララが立った」


背後で陵介がぼそりと呟く。


「おわあぁぁ!陵介、すげぇよ!クララ立ってる!二本足で立ってる!」

 

あまりの感動と興奮で、ついつい陵介におもいきりしがみついてしまった。


「あぁ、運が良かったな」


陵介がポンポン、と頭を優しく叩くもんだから、一瞬にして正気に返る。

これじゃはしゃいでるのがバレバレではないだろうか。

俺は慌てて陵介から手を離した。

 

 


それから

早めの昼食を済ませた俺達四人。

食後の何気ない会話が交わされる中、俺は黙ってパンフレットに目を通していた。

すると、そこにとある動物の名前を見つけ、不覚にも胸がときめく。


(カピバラっ)


前にテレビで温泉に入るカピバラを見た時から…あの何とも言えない表情、フォルム、まったりとした動作、とにかく全てに惚れてしまったのだ。

こそこそ一人で瞳を輝かせていると、拓海に服の袖をツンツンと引っ張られる。


「どうしたの?気になる動物でもいた?」

 

「え?あぁ、うん」


俺はパンフレットを指差した。


「カピバラが見たかったんだ?あ、でもココからだと少し戻らないと…」


拓海はそう言うと、チラッと遼の方を見る。


「…じゃあ二人で、こっそりちょっとだけ見に行こ」

 

「うん、サンキュー拓海」


話が纏まった俺達は食器を片付け店を出ようとした時に、会話の邪魔にならないようにそっとその場を後にした。

 


---------

 


「っ!!」


 

これは可愛い。

実に可愛すぎる。


「お昼時で良かったね。こんな近くで見れるなんて、ね?ミツキ!」

 

「うん…すげぇ可愛い」


目の前にいるのは最大の月歯類、テレビで見た通りのつぶらな瞳。


カピバラである。


「どーしよ、可愛すぎるっ」


先程のことなどサラリと忘れ、再び我を忘れて小さな子供のように身を乗り出してはしゃいでしまった。

そんな俺の様子に拓海はにっこりと笑う。

 

五分くらいは眺めていただろうか。


「ミツキはもういいの?良ければ遼達のトコ戻るけど」

 

「うん、十分だよ。早く戻ろう」


少しばかり名残惜しいかったが、何も言わずに二人で来てしまったので急いで陵介達の元へ戻ることにした。

俺達がレストラン方面に戻ると、近くのベンチに座る陵介と遼の姿が見えた。

二人組の女の子と何やら話をしている。


「あいつら、何してんだろ?」

 

  」


とりあえずテクテク歩み寄ると、少しだけ会話が耳に入ってきた。


「いや、………じゃ…」

彼女……いなら………一緒に………」


完璧には聞き取れないが、これはどうやら逆ナンされているらしい。

そして俺達がベンチのすぐ横に着いたその時…


「悪いけど、女には興味無いんだ。こいつ、俺の恋人だし」


陵介の肩を抱き寄せて、遼がキッパリとそう言った。

この突然の事態にぽかりと開いた口が塞がらない。

もちろん呆然としているのは俺だけではない。逆ナンしていた女の子二人も完全に固まっている。

隣にいる拓海は悲しんでるのか呆れているのか…複雑な表情を浮かべていた。

それから女の子達はそそくさと退散し、計四人がその場に残される。


「拓海!?」


俺達の存在にようやく気が付いた遼が、声を上げ勢いよく立ち上がった。


「…ハル…カ」


拓海はぽそりと遼の名前を呟くと、いきなり走り出してしまった。


俺はと言うと…


「陵介…、その…幸せに…な?」


混乱する頭で訳分からん祝福の言葉を残し、急いで拓海の後を追った。

…というか、冷静になって考えてみればアレって明らかに逆ナンを交わすための演技だろ。


(とにかく!拓海を見つけて誤解を解いてやらないと。あいつ、遼のことになると冗談通じないみたいだし)

幸いな事に拓海はあまり足が早くなかった為、すぐに追いついた俺が『あれ絶対嘘っぱちだから、ちゃんと遼から事情を聞いてみような』と持ち掛けたら、怖ず怖ずとだが納得してくれた。


これで一先ず、一件落着となりそうだったのだが……

 

 

ねーねー君達、二人なの?」

良かったら俺らと一緒に周らない?男二人で淋しくってさ」


アクセサリーを必要以上に身につけたいかにも軟派な男達に声を掛けられた。

なんというデジャヴ。てかなに?このパターンお約束なの??

なんでいつもこういうのに絡まれなきゃいけないんだよおい。
 

(うぜぇ…)

俺は隣でキョトンとしている拓海の手を引き、男達に背を向けて歩きはじめた。


こういうのは無視するに限る。


声を掛けた相手が男か女かの判別もつかない腐れ目玉に用は無いし、口を利くのすら億劫だ。

ズカズカと早足で歩いてはいるのだが、奴らはしつこく後をついて来る。


「あっれ~?シカトなワケ?」

 

可愛い顔してつれないなぁ」


(しつこい)


それでも無視し続けて足を進めていると、前から数人の男がこちらへと向かってきた。

雰囲気から察するに、多分軟派男どもの仲間だろう。


「…へぇ、マジで二人とも可愛いじゃん」

 

な!言った通りだろ?」

 

メッチャ楽しめそう」


俺と拓海を挟み、男達はニタニタ笑いながら話をしている。

(ちっ、グループか。これは多少面倒臭くなりそうだな)


どうにか拓海だけでも逃がせないものかと思考を巡らせていると…


「ほら、こっち来いよ」

 

やっ!?」


背後の男に腕を引かれた拓海がよろける。


「っ!テメッ」


俺が咄嗟に振り返ると、拓海を拘束した男の手にある物が光った。


(はぁ?!バタフライナイフ!?)


「さて、君も大人しくついて来てもらおうか」

……」

(ただの軟派野郎じゃなくて、どこかのチンピラだったか…)


人目があるこの状況であまり騒ぎ立てると、拓海や一般人に危害もあるかもしれず、この場でどうする事も出来ないと判断した俺は、仕方無しに大人しく奴らの指示に従うことにした。

 

陵介に遼。なんでアイツら肝心な時にいねぇんだよ)

 

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さて…と、どーするかな。この状況)


俺達二人が連れて来られたのは園内の立入禁止区域。飼育員達も使用しない園内のデットスペースのようだ。

故に、他に誰かが来る気配など毛頭も無し。

 

こんな場所を知ってるってことはもう確実に常習犯と見た。

女の子を誘い込んだり脅したりしては、己らの欲望のまま犯罪を繰り返しているのだろう。

 

相手は全部で八人。

俺は喧嘩が得意とはいえ、拓海が拘束されている以上、迂闊に動くことが出来ない。

いや、仮に動けたとしても得物なしでこの人数は…ちょっと流石に厳しい。


その男どもはというと…


「俺、こっちの黒髪のコ~」

 

「んじゃオレは茶髪のコな」


など、勝手な事をほざきつつ、四四に分かれていた。


これから起こるであろうことを想像してしまい、堪え難い気持ち悪さと悪寒の中、横目で拓海の姿を確認すると…今にも泣き出しそうな表情でガタガタと震えている。


そんな拓海の姿を見て…


俺は完全にブチ切れた。


俺の上着に手を掛けていた男の鳩尾に渾身の力を込め、一発ぶち込む。


「ぐっ?!」と短く呻いて一人倒れたのを合図に、俺は拓海の方へ走り出した。

(油断している今のうちならゴリ押せるかっ?!)


 

が、しかし。

すぐにその脚を止めた。


「おーっと、君はお転婆が過ぎるみたいだけど…大人しくしててもらおうか」


男が先ほどのナイフを拓海に突き付ける。


(くそっ)


俺は身動き出来ないもどかしさに、きつく拳を握りしめた。

すると、別の男がニッコリ笑いながら無言で俺の目の前に立った。

パァンッ!!

乾いた音が耳元で聞こえ、一瞬遅れて左頬にジーンとした痛みと熱さを感じた。

勢いよく平手打ちを喰らったその衝撃で唇を噛んでしまい、口の中にブワッと鉄の味が広がっていく。


「あんま調子乗ってんじゃねーぞ」

 

っつ…」


胸倉を掴まれ、息が苦しい。

 

その様子をケタケタ笑いながら見ていた拓海を拘束している男。

ナイフを握っている手が油断のせいか、拓海から離されている事に気が付いた。


「拓海!角度はそのまま、腕をおもいっきり振り下ろせっ!」

 

え!?う、うん!!」


今の拓海は男に後ろから羽交い締めにされた状態ではあるが、両手は自由だ。

更に精一杯の抵抗で、相手の腕を掴んで必死に解こうとしていた。

 

突然の指示に拓海は困惑した様子であたふたしていたが、ぎゅっと目をつむり、言われた通りに腕を振り下ろす。


「かはっ!!」


よし、狙い通り!

肘鉄クリーンヒット!!


予想もしなかった拓海の反撃に、男の腕が緩んだ隙をみて拓海は慌ててこちらへと駆け出す。

俺も直ぐさま目の前の奴の、しかも顔面目掛けて渾身の力で蹴り上げた。


「さっきは平手打ちをありがとな!」


倒れた男をにんまり顔で一瞥し顔を上げると、拓海は近くまで走り寄って来ていた。

そのすぐ後ろをナイフ男が追いかけて来る。


「拓海っ」


俺は手を伸ばし、拓海の手を掴むと、ぐいっとこちらへ引き寄せた。

そのままナイフ男の前に進み出て、低い低い姿勢から鳩尾に拳を叩き込む。

 

拓海からの一撃があったおかげであまり力を入れずとも、そいつはあっさりと地面に転がった。


「拓海、大丈夫?怪我ないか?」

 

だ、大丈夫!」


服やら頭やらに着いた埃をぽふぽふと払ってやると拓海はニコッと微笑んだ。

拓海は取り戻せたが、だからと言って状況がこちらに有利に傾いたとは到底言い難い。


前方には五人の男。


(しかも一人は熊並の大男だし…。何食ったらあんなにデカくなれんのか聞きたいくらいだ)


背中には俺の服をしっかりと握り締めてカタカタ震える拓海。

 

この後はどうしたものかと考えていると、遠くからバタバタと第三者の足音が聞こえてきた。


遼と陵介に違いない。


多分、後数秒で此処に着く。


「…拓海、危ないからなるべく離れてろ」


それを確認した俺は前を見据えたまま、拓海に自分から離れるよう促す。


「わかった。気をつけて」


そう言うと、しっかりと握っていた服から手を離した拓海が俺の少し後ろに下がる気配がした。

先程もだが、こんな状況でも指示を的確に遂行出来るなんて、ああ見えて意外と肝が据わってるんじゃないか?

そこへ

「な…っ!?」

ようやく拓海のナイト様のご到着だ。

三月、大丈夫か!?」

あぁ、どうってことない」


(あんなカスの平手なんて効くかってんだ)


心配する遼に余裕さのアピールで、ニッと笑ってみせた。

とはいえ正直な所、切れてしまった唇は少々痛む。そりゃそうだろ。痛いに決まってる。


「拓海は?」


男達がジリジリと脚を進めて来ているので応戦準備をしつつ、遼に問い掛ける。


「筧が避難させてくれた。遠慮しなくていいぜ」


(ナイスだ陵介、さすがオカン)


心の中で陵介に感謝しつつ、俺は遠慮無しに駆け出して一番手前にいた奴に回し蹴りを繰り出した。

びしっと着地まできまりはしたが、背後に気配を感じる。

ちっ、めんどく…」せーな。と振り返ると、既に遼がそいつの顔面に一発お見舞いしているところだった。


(ひゅー。すっげぇ腕力)


俺とは違い、大きい体格を生かした遼らしい殺り方…もとい戦い方だ。


(これなら簡単に片付きそうだ)

----------

逃げるなんて、だらしねーな」


ラストワンはあの熊並の大男。

地面に転がった仲間達を見て、ついにはビビってしまったらしい。


そんな大男を俺と遼で挟む形で行く手を遮っていた。


せーの、なんて掛け声も無かったが、二人同時に前から後ろから大男の顔面に蹴りを食らわせる。

 

ずぅん!

と重い音を立て、大男は他のオトモダチ同様に地面へと転がった。

白目剥き出しでのびている熊並を、いらつきに任せながらガッと足先で小突く。


「これに懲りたら、一生お家で大人しくしてるんだな」


けっ、と吐き捨て、俺はさっさと踵を返した。

遼の奴もなんか熊並に言ってたみたいだけど、アレはぜってぇ聞こえてないな。うん。


「お前、やるな」

「まぁね」


遼が感心顔で声を掛けてきたので、俺はニコッと笑うと、思っていたよりも深く切ってしまったらしい唇の血を袖口でガシガシ拭った。


「サンキューな、遼。来てくれて助かったよ。あの人数はさすがに一人じゃキツかった」

 

礼ならお前じゃなくて、俺の方だ。拓海を守ってくれて有難うな。…それに、久々暴れてスッキリしたぜ」


もしあのまま劣勢状態で喧嘩続けてたら…高確率で剥かれてたと思うと…


……

ま、まぁ。男だって気づいたら犯られるどころか殺られてたかもな。はは…)


……


襲う悪寒を振り払うため、頭をブンブン振ってから遼に向き直る。


「そりゃ拓海に怪我させる訳にはいかねーよ。…つーか、遼って結構強いんだな」


俺の言葉に、遼はいたずらっぽく子供のように微笑んだ。


「俺が弱かったら、守ってやれないだろ?」

 

「そーだよな」

 

「「あははは!」」


一暴れした後の高揚感から、何が面白いのかわかりもしないが暫く二人で笑っていた。

 

昨日の敵は今日の友。…とは些か違うが、一緒に喧嘩をしたおかげで遼とも打ち解ける事が出来たかな。


そこでハタと気がつく。


「あ、そういや陵介達ドコ行ったんだ?」

----------

もう終わったのか?二人ともお疲れさん」


イラッ


立入禁止区域の近くのベンチに二人はいた。


居たには居たのだが…


「なーに呑気に茶ぁしばいてんだお前は!」


あろうことか、人が必死で喧嘩してる時にまったり拓海とティータイム。


…ペットボトルのお茶だけども。


「仕方ないだろ?桜井の震えが止まらなかったし、落ち着かせるためにはまずお茶だ。お茶」


その方程式はよく解らないがちらりと拓海の方を見てみると、安堵の表情を浮かべ、遼にきつく抱き着いているところだった。


「…ちぇ、仕方ないか」


あの場面で拓海を上手くカバー出来るのは陵介くらいだったし。

俺は無意識に切れた唇を袖口で擦ろうとしたが、陵介に止められた。


「それにな、三月…」

 

ん?」


陵介が俺の頬に手を添えたかと思うと、くいっと軽く上を向かす。

ゆっくりと陵介の顔が近づいて来た。


そして…


「お茶には殺菌作用があったりなかったり」


そう言うとお茶で湿らせたハンドタオルでゴシゴシと口端に付いた血やら傷口を容赦無く拭う。


「あででで!痛い痛いっ!」

 

まったく、…お前はいつも無茶しすぎだっつーの」


もしかして


(陵介、心配してくれてんのかな)


それに加えて、少し怒ってるっぽい。


「い…以後、気をつけ…マス」


俺がもごもごと反省すると、ポン、と一つ肩を叩かれた。


「応急処置終了。後は寮に帰ったらな」

 

…あんがと」

「素直でよろしい。ちなみにオキシドールになるから覚悟しとけよ」

「げぇぇ…」

 

お茶の比じゃない痛みが待ち受けているかと思うと、寮に帰るのが若干嫌になってきたのだが…

ま、揉め事はこれにてようやく一件落着かな。

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見て来て、いい?」


園内を見終えた俺達が出口に向かって歩いていると、拓海が最後にお土産を見たいと言った。


「そうだな。せっかく来たんだし、俺も何か…」


佑とか早稀とか…。

あ、後は悠紀人さんにもお世話になってるからな。なんか買っていこう。

壱岐は…どーすっか。


こうして、俺達四人は土産屋に寄ることにした。

―エントランス付近の土産屋―

 

 

陵介は何か買わないのか?」


俺の手には既にカピバラのストラップやらキリンのキーホルダーやらパンダの縫いぐるみやら…

あげる予定の人数以上の商品があった。


「ん?あぁ、別に土産買って行って喜ぶ奴とかいないし。…てか三月。お前それ、金足りるのか?」

 

あぁ、平気。俺、金持ちだから」


俺達がそんなやり取りをしている後ろでは、遼が持つカゴにポイポイ商品をつっこんでいる拓海がいた。

あらかた商品を見終えたのか、俺がレジに並んでいると遼と一緒にその後ろに並ぶ。


「あっ、兄さんの分…忘れた!」


その一言に俺は思わず反応してしまった。


「え?拓海も、兄貴がいんの?」


『兄さん』と言う言葉に、今のいままで脳内の片隅にもいなかった人物の顔が鮮明に浮かび、少しだけ自己嫌悪に陥る。


「も、って…じゃ、ミツキも?」

 

あぁ…まぁ、とんでもねぇのがな」


一度思い出したら頭から離れてくれない、あの間の抜けた顔にげんなり。


「そうなんだ。偶然だね」


うちの阿呆兄貴の事を知らない拓海は、偶然の一致に嬉しそうに微笑んでいた。


そんなこんなで無事に土産も買い終えた俺達はというと、朝の待ち合わせであったエントランス前にいた。


「今日は、ありがと。すっごく、楽しかった♪」


拓海は可愛い笑顔で言う。


「こっちこそ、拓海や遼のおかげで楽しかったよ」


人見知りが激しい俺としては、初対面になる拓海の彼氏と仲良く出来るかが心配だったけど、あんなに楽しい奴だと思わなかった。

ひっそりと憧れてた動物園に来れたのも、声を掛けてくれた拓海のおかげ。


「…まあ、何だ。俺達も、そこそこ楽しかったよな?此処とは、全然関係ない事で…だったけど」


遼は何故か苦笑いを浮かべ、陵介に話し掛けた。


「…あ、あぁ。まぁ、楽しかったな。中々他では体験出来ない体験をしたような気がするよ」


陵介もそれに苦笑いで応えている。


二人が言う…他では出来ない体験ってなんだ?

 

あ、あれか。


電撃恋人宣言か。

 

俺は一人納得して頷いたが、拓海は何の事かわかっていないようで頭に『?』マークを浮かべていた。

あの後…


拓海と遼と別れて、俺は陵介とまったり歩きながら寮へ向かっていた。


「あー、楽しかった。可愛い動物沢山見れたし!な、陵介!」


興奮いまだ冷めやらず。俺は両手に持っている大きな買い物袋をブンブン揺らしながら陵介に話し掛けた。

そんな俺を見て、陵介は…ぷっ、と短く吹き出すと、柔らかく微笑みながら俺の頭をぽふっと叩く。


「そうだな、三月のはしゃぎっぷりは端から見てて楽しかった」

 

なっ!?」


陵介の思いもよらない回答に、上擦った声を上げてしまった俺は多分耳まで真っ赤になっているんだろう。


(顔…熱っ)


そんなにはしゃいでたか?俺。


疑問を感じた俺は今日一日を振り返ってみたのだが…


………


は、はしゃいでたなぁ…

 

めっちゃくちゃ、はしゃいでたなぁ…


自分でも知らなかった自分の一面に、恥ずかしさがドンドン込み上げる。


「でも、今後はあんまり勝手に行動するなよ。お前、目を離すとすぐ絡まれるんだからな」

 

それ、俺のせいじゃないだろ!それに今回は拓海を助けなきゃって思ったら体が勝手に…」

 

今日は桜井も無事だったし、そのくらいの怪我で済んだから良かったものの…いつか大怪我したらどうするんだ」

 

「大、怪我?…したら。まぁ、仕方ないよな。俺もまだまだ弱っちぃってことだ」

 

この捻くれ者。俺は三月を心配して言ってるんだからな。本当は、そんな小さな怪我だってして欲しくないんだ」


珍しく陵介が真剣な眼差しで珍しい事を言うもんだから…


ますます俺の顔は熱を上げた。


「俺なんかのこと心配してくれてるのは嬉しいけど、俺は…。いや…、以後気をつけます」

 

うっし。いい子いい子」


両手の買い物袋で顔を隠した俺だったが、陵介は優しく髪を撫でてくれた。


「なんだか三月と桜井を足して割ったら、理想の後輩が出来上がりそうだな」

 

それ、割方によっては救いようのないモノが出来んじゃね?」


陵介は、それは一理ある…と呟くと…


「やっぱり手の掛かる後輩のが俺には合ってるかも」


ふわりと微笑み、今度は力一杯に髪をくしゃくしゃしてきた。


「おわ!陵介やめろって!」

 

どうせ駅着いたらワックスで整えるんだからいいだろ」

 

そーいう問題じゃねーから!」


今日一日、歩き回って動物達に癒されて…ついでに喧嘩して…。

 

色々あったが、たまにはこういうのも悪くはないかな、とも思った。

  e n d

これにてコラボレーション企画第二弾の終了となります。

さて、如何でしたでしょうか?

三月ははしゃいでましたねー…(遠い目)
コラボになるとどうしてもテンション上がっちゃうみたいで、書いてる私も手がつけられません。

それにしても遼と三月って以外といいコンビになりそうです。凸凹コンビ(゚∀゚*

皆様にもお気に召していただけたのなら幸いです。

面白かったよ!という方がいらっしゃいましたら、是非とも感想を頂けたら水無月共々喜びます。

遼視点が気になる方は『Link』にある‡真昼の月‡へどうぞ。


ではでは、ここまでお付き合いいただき有難うございました。

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